夫の京土産に鏡をもらった

2011.03.31

長者は死体を隠し、再び下女に池をのぞかせた。下女は“鬼王”のような我が姿を見て「この世の空しいことを知った」。この下女は「貧乏なため、ひとつの鏡すら買うことができず、我が身の姿形の程度も知らなかった」という設定だ。水くみの下女がそれまで水面に自分の姿を見なかったのは不自然だが、鏡のない時代、自分の見た目がどの程度のレベルかを知るのは、想像以上に難しかったのかもしれない。狂言の『鏡男』は、夫の京土産に鏡をもらった田舎の妻が、そこに映る女の顔を見て、夫が京で浮気した女の顔と勘違いして、腹立ちまぎれに鏡をぶち割ってしまう話だが、これなども、自分の顔をふだんからはっきり知っていれば、鏡に映る顔がほかならぬ自分であるとわかったはずだ。
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