ルイ・ヴィトンやカルティエは鉄道や自動車の時代の、そしてエルメスやシャネルは女性の社会進出という時代の「動き」に即応した商品を作り、その飛躍の端緒を開いた。そうした観点からすれば、日本は高度成長期以降に、ヨーロッパで一世紀以上かけて進められた様々な日常生活の「動き」の変化を短期間に圧縮して経験してきたと言える。自動車の普及や新幹線の敷設、とくに1980年代中葉以降の海外旅行の一般化などで、日本人の行動範囲は急速に広がっていった。さらに、1986年の男女雇用機会均等法の施行や、キャリアウーマンであった皇太子妃の誕生がニュースになるなかで、女性の大学進学率そして就職率が急激に上昇した。女性の間で機能性とデザイン性を兼ね備えた日用品に対する希求が高まっているところに、ヨーロッパですでに1世紀以上を生き残ってきたブランドが流人したのだから、それらが高い競争力を発揮するのは当然の現象といえる。なお、歴史的に見れば極端なファッションへの情熱は時代の過渡期に見られる現象でもある。例えば大衆消費社会が本格的に到来した19世紀後半のイギリスでは、デパートや通信販売が登場するなか女性たちがショッピングやお洒落に夢中になり、女性雑誌や美容マニュアルが未曾有の数量で発行された。半径3メートルとも言われた巨大なスカートが流行したり、コルセットでウェストを極度に締め上げることがよしとされると、瞬く間に理想のウェストは42センチだと報じられる。このため、19世紀末には女性の健康問題が国家的な懸案となったほどだ。裕福な女性の万引きや、現代の買い物依存症にあたる女性も登場して社会問題化した。こうした状況は当時の知識人たちの危機感を煽るに充分で、資本主義の発展が女性達を利己的にし、イギリス女性の美徳である「利他」の心を損なっている、などとおおいに批判された。