「僕の病名は何でしょうか」−病名について

2012.02.06

自分の病名を知りたい。ごく自然な願望だと思います。しかし、自分の病名を知るのは怖いというのも、これまたごく自然な気持ちです。病名をめぐって、患者さんの心の中には、たいていこの二つの気持ちが交錯していると思います。インフォームド・コンセントの考え方が広まったことに伴って、精神科でも、病名を伝えることは良いことであり、医師の倫理としてぜひとも行うべきことである、という考え方が強くなっています。ことに新聞報道などではこのような論調が多いようですが、専門家の間でもこうした建前が公然と語られるようになっていて、私は少し戸惑いを覚えています。数年前、精神科専門医というものの試験を受けました。精神科専門医とは、精神科医の社会的信頼を高める目的で、日本精神神経学会が二〇〇四年に創設した資格です。その際決められたレポートを提出しなくてはいけなかったのですが、その記載の要件として、「病名をいつ、どのように伝えたかを記載すること」というものがありました。病名は必ず伝えなくてはならないものとされているようです。しかしながら、病名をどう伝えるかはもちろん、そもそも伝えるかどうかということも、医師の当然の義務といったようなものではなく、個々の患者を前にしてそのつど医師が悩むべき、たいへん微妙な問題なのではないかと私は思っています。ことに精神科の場合、その判断は精神療法の一部を成すものだと思います。実際、私は病名を機械的に伝えてはいません。また、患者から聞かれないのにわざわざ私の方から病名を伝えることは、それが特に精神療法的にプラスだと判断した場合以外は、原則としてありません。絶対的にこのような立場が正しいとは主張しませんが、これはおそらく、精神科医であればごく普通の感覚ではないかと思っています。